東アジアの家父長制 ― ジェンダーの比較社会学
著 : 瀬地山角
キーワード : 東アジア、家父長制
発行年 : 1996 年
内容メモ
1 章 家父長制とは何か
ウーマン・リブ以降のフェミニズムの理論構築の中で、家父長制はキータームであり続けてきた → フェミニズムにおける家父長制
従来の文化人類学・社会学などにおける用法とフェミニズムでの用法にはズレがある → 家父長 (patriarch)
2 章 主婦の誕生と変遷
規範それ自体を比較検証するのは難しいため、既婚女子の一に着目して比較する
「家庭の主婦」 (単に主婦とも表記する) がどう誕生したか?
主婦をみることは、「女性問題」 のもっとも典型的な部分を見ること
主婦が女性にとって支配的な存在形態ならば、その様態を記述、説明することは、その社会における性に基づく権力や役割の配分のされ方の中核を説明することに等しい
女性の社会進出という現象を捉えるうえで、主婦という比較の軸を形成する (既婚女子労働者や男性のあり方を照射する)
ジェンダー論の中で、女性論が幅を効かせることは男性論を育てるうえでは好ましくないが、本書では女性に着目
女性に着目する方がはるかに変化が見えやすい
男性は一貫して主たる稼ぎ手の役割を担ってきた
家父長制の矛盾も、女性の側により多く現れる
1985 年の上野千鶴子の整理による、女性に関する社会理論の 2 つの流れ
社会主義婦人解放論 : マルクス主義に基づく ← 市場を問題にする理論
ラディカル・フェミニズム : 1970 年代以降にウーマン・リブの後を受けて、アメリカを中心に発達 ← 家庭を問題にする理論
それらを統合しようとするマルクス主義フェミニズム
マルクス主義フェミニズムでは資本主義体制批判から資本主義という語が使われるが、問題は工場制生産様式によってもたらされる側面が強い = 社会主義社会でも類似のことが起こりうる
本書では、「産業化」 (産業主義 (industrialism)) という語を使う
資本主義における主婦の誕生と変遷
社会主義における主婦の誕生と変遷
3 章
原生的労働関係から近代主婦の誕生 (主にイギリスの例)
現代主婦の誕生 (アメリカの事例中心)
主婦の消滅? (北欧の事例中心)
社会主義における主婦の誕生と変遷
2 部
4 章 日本の近代主婦と家父長制
欧米の家父長制の思想的な原点がキリスト教にあるのに対して、東アジアの性にまつわる規範の原点は儒教が大きな位置を占める
日本・韓国・台湾などを儒教文化圏としてくくる議論が少なくないが、儒教の浸透の過程や度合いが異なることに注意が必要
日本の近代主婦と家父長制
5 章 日本の現代主婦と家父長制
日本の現代主婦と家父長制、日本の現代主婦
家族
日本の女性労働力率
3 部
6 章 韓国の家父長制
韓国における産業化
韓国型家父長制
韓国の女性労働力率
7 章 台湾の家父長制
台湾における産業化
台湾型家父長制
台湾の女性の就労
8 章 北朝鮮の家父長制
東アジアの社会主義社会のひとつ
社会主義型は女性の労働力化を強く推し進める
北朝鮮の金日成化
北朝鮮の社会主義化
北朝鮮の脱社会主義化
9 章 中国の家父長制
中国はアジアで女性の社会進出が最も進んだ国だと評されることもある
中国側の宣伝を真に受けたような紹介も少なくない
中国の社会主義化
中国の脱社会主義化
10 章 結論
東アジアのジェンダーの比較社会学
労働力再生産システム
「男 = 生産労働 / 女 = 再生産労働」 という分担システムを崩すには?
これからの高齢化社会ではケアの需要が爆発的に増える
このままでは財源や労働力が供給されない恐れがあるため、女性の就労を促し、福祉セクターで吸収して、活用していく
主婦がこれからの介護も育児も全部自分の手でこなせるなら制度をいじる必要はないが……
福祉労働の女性化という新たな問題を提起するが、一歩前進ではある
母役割は、生物学的性差がそのまま社会的性差へと繋がる最後の砦
母役割の強調がない文化では、生物学的性に基づく権力や役割の配分の正当化は難しい
日本は、母役割の強調がなされる文化なので、生物学的性に基づく役割配分が疑問視されにくい